三日月亭のおいでませ回数

2010年10月3日日曜日

片羽の妖精



彼女の名前は聞けなかった

そもそも、みんなして名前を呼ぶ気配がなかった

「片羽」それが彼女の呼び名だ

片羽の妖精、かつて彼女の居場所は氷上に在った

だがこの国の政権を極右政党が握ったとき

凄惨極まる圧制は、国民の反発を買い

レジスタンスを生む事となる

彼女の父親が抵抗運動に参加し

そして彼女も父親の足跡をたどるように抵抗運動へと身を投じた

妖精は氷上で羽ばたく事は出来なくなった



「平和を彩る色は…赤」


それは彼女が軍事練習の時、口にした言葉だった

「それは為政者の血であり、我々の血であり、国民の血でもある」

「平和はその血によって彩られる」

「かつての先駆者がそうして来た様に、我々もそうするだけだ」

「そして願わくば、後の世代の者には我々の事は教科書の一ページに成らん事を」

先任の司令官の言葉でもありこの国の革命の父の言葉でもあった

この国の歴史は戦いの歴史だ、

隣国の侵攻をしりどけ

軍事政権から政治を民衆の元へ返し…

先の大戦以前より今日に至るまで

この国では多大な血が流れた

平和を求めるものの血流れていったのだ

それは明日も流れるだろうし、明後日も流れるだろう

血で血は止められない

しこりが無くなるまで戦いは終わらない



俺が此処のレジスタンスに義勇兵として入ったのは

「片羽」に惹かれたからだ

彼女は笑ったりはしない

もし彼女が笑う事があれば見てみたいものだ

そう思えたからだ

この戦いも長く続いている

願わくはこの気高き女性に神の祝福を





                  

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